広島弁護士会所属 福山市の弁護士森脇淳一

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後見事件について(1)

2018.11.16

 以下に引用するのは、私が福山支部に勤務していた間に司法研修所で開かれた家事事件の担当裁判官が集まってした研究会に研究員として参加することになった際、司法研修所から「家庭裁判所と国民,地域社会との関係は,どのようなもので在るべきか」という問題について議論するための話題事項を提供するよう求められて司法研修所に提出した文書である(「家事審判法」、「家事審判規則」は、平成25年1月1日の家事事件手続法施行に伴い廃止された)。
 なお、私の提出したこの話題事項については、上記研究会においては時間不足を理由に特に議論がなされなかった記憶である。
 今回はこの文書を引用するにとどめるが、裁判所における後見事件処理に関する諸問題については今後も逐次触れることになると思う。

 

「(話題事項)
 成年後見に関する事件については,市町村等の地方公共団体,社会福祉協議会等社会福祉法に基づく団体や地域のボランティア団体,さらには老人福祉法に基づく老人福祉施設,精神保健福祉法に基づく精神病院などとも常に密接な協議を持ち,連絡を取り合って,(身上監護を担当する)後見人候補者(子どもの手を離れた専業主婦や定年退職後の社会人等を想定)の開拓育成,(財産管理を担当する)後見人ないし(親族を後見人に選任した事件については原則全件に付する)後見監督人に選任されるとともに,後見等申立てについての援助を行うなどの機能を有する法人(地域の社会福祉協議会等を主体として設立するNPO等を想定)の設立,さらには鑑定人(家事審判規則24条)の確保などを図ることによって,被後見人等,ひいては地域における老人や障害者の権利擁護に遺漏なきを図るべきである。

 

(提出理由)
 私が,平成13年4月津家庭裁判所上野(現・伊賀)支部(以下「伊賀支部」という。)で初めて後見等事件を担当したときに感じた驚きは今もって強烈である。 高齢化社会に向かっている上,被後見人等が死亡するまで後見等監督をしなければならない以上,それに備えた財産管理システム(当然それに対応できるOAの開発・導入が必要であった。)及び大幅な増員が不可欠であることは明らかなのに,最高裁は,それらについて,一切考慮していないように思われたからである。そこで,私は,私の勤務する支部だけでもそれらに備えたいと考え,まず,後見監督等に当たる能力を有する参与員を採用して活用した(ちなみに,私は,家事審判法10条の趣旨に従い,審判事件については,原則として全件につき参与員を選任していた。)。また,地域の社会福祉協議会(以下「社協」という。具体的には当時の上野市社協。現・伊賀市社協。厚生労働省未来志向研究プロジュクトとして福祉後見サポートセンターの立上げを計画するなど,後見について非常に関心の高い社協であった。)と,積極的に連携した。具体的には,社協から講師派遣要請を受けて,設立が予定されていた伊賀福祉後見サポートセンターを核として伊賀支部地域における円滑な後見等事務が行えるよう提言するため,社協で毎月行われていた福祉後見サポートセンター設立準備会議に参加した。さらに,家庭裁判所と地域社会との連携を深めるため,社協の担当職員及び伊賀支部所属の調停委員らとともに,前記会議等で知り合った地方公共団体の福祉担当職員,精神病院の精神保健福祉士(PSW。同人らが勤務する精神病院やデイサービス施設等も積極的に見学した。),民生委員らと定期的に意見交換の機会を持ち,その成果として伊賀相談ネットワークの立上げにも関与した。そして,将来的には,社協を母体として設立するNPO法人(弁護士や司法書士等の自然人はいつかは死亡する以上,法人でなければならなかった。また,社協を後見人等に選任することは,権利擁護事業を行っている被後見人について,問題があった。)に,上記財産管理システムを導入(当然,そのシステムを取り扱う要員を雇い入れる必要性もあると考えた。)してもらうため,権利擁護をしていない被後見人予定者で,かつ相当額の報酬の支払いが可能な事案について,積極的に,社協を後見人又は後見監督人に選任することなどを計画し,その一部を実行した。しかし,参与員の活用は,その高額な手当の支給を最高裁家庭局からとがめられて頓挫したし,社協の積極利用についても,後任裁判官に詳細なメモで引き継いだが実行されなかった。
 私は,平成17年4月以降4年間,刑事事件のみを担当し,平成21年4月現任庁に着任後,後見等事件のごく一部につき填補裁判官として担当するようになったものの,後見等事件についての動向には詳しくない。しかし,財産評価額が1000万円未満の事件や,弁護士等が後見人又は後見監督人となった事件については監督処分事件を立件しないなどの方針が出されているなどと聞き[注・現在,この方針は変更されている],これまた驚いている。そもそも,1000万円未満の財産であっても,いや,そのような金額の財産であるからこそ,被後見人等にとっては大切な財産なのではあるまいか(私が上野支部着任後,未成年後見や財産管理事件等の全件掘り起こしをした際に判明した不正事件の中には,資産額1000万円未満ではあるものの,被後見人に与える影響が非常に深刻な横領事案があった。)。また,現在においても弁護士等による横領事件が多発していることは周知のことであるし(被害額が多額に及んだ場合など,弁護士保険等ではまかなえない可能性も高い。),今後,弁護士の質の低下が確実と思われる中,そのような方針が正しいとは思われない。さらに「リスク要因」を発見するという方針を漏れ聞いたこともあるが,「リスク」が明らかな事件については,当然それに応じた対処をしている筈で,私の乏しい経験に照らしてみても,表面上リスクがないと思われる事件こそが,「リスク要因」のある事件なのではあるまいか。
 そこで,私が伊賀支部で計画したような方策を,全国の家庭裁判所において採用していただきたく,提出した次第である。

 

(意見)
 そもそも,平成11年の民法の一部改正法による成年後見等事件を,家庭裁判所(のみ)が担当することとなったのは,大きな過りであった。仮に引き受けるとしても,家庭裁判所を,他の行政機関や民間ボランティアと連携しやすいような,より行政機関であることを明確にした組織に変革するか,事件増に応じて,後見監督等事件を担当する独立したセクションを創設することの確約を,国会に求めるべきであった。前記改正法立案当時,その担当者は,アメリカ合衆国連邦議会で,後見人による不正が大きな問題となっていたことを,十分認識していた筈である(日本社会福祉士会編集「アメリカ成年後見ハンドブック」勁草書房刊参照。同書によると,合衆国では,成年後見等事件は「検認裁判所」で取り扱われている例が多いようである。)。現在,各家庭裁判所の後見事件等の担当者が非常な苦労をしていることについては,その重大な責任が,上記改正法立案当時の最高裁家庭局における担当者(そういう方がおられたのではないかと想像している。)にあるものと考える。
 しかし,今からでも遅くはない。我が国において,極めて重要なこの制度を家庭裁判所が担うとされている以上,家庭裁判所が主体的に行政(地方公共団体を含む。)や立法,諸団体,更には国民全体に働きかけて,この制度をそのあるべき姿に変革すべきである。(以上)」