広島弁護士会所属 福山市の弁護士森脇淳一

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弁護士の生活(5)

2019.05.02

 裁判官生活と比較しての「弁護士の生活」についての話題は、もう書き尽くしたと考え、前回のエッセーの表題は「弁護士の仕事(1)」とした。しかし、今回は、キーボードを打ち始めてから、「仕事」というよりは「生活」というべきだと思い直した、多分最後の「弁護士の生活」を書き足そうと思う。
 予想されたこととはいえ、裁判官と弁護士の生活は、「宮仕え」と「自由業」という仕事の質においての大きな差(経済生活や組織人〜弁護士も、想像以上にそういえる一面があったが(注1)〜か否か)のほかに、仕事を補佐してくれる人が、書記官や事務官という、独自の職務権限(反面義務)を有し、かつ最高裁事務局以下の指示系統の下にある人か、法律事務所事務員という、その仕事内容についても全て弁護士が指示する必要のある人か、という大きな差がある。
 その結果、私の弁護士としての生活は、裁判官時代と比べると、日常的に非常に多くのこと(誤解を恐れずに言えば、その多くは「雑用」)を処理しなければならないことがわかった。
 
 弁護士になってまず驚いたのは、弁護士向けの書籍の多さである。ほとんど弁護士(もちろん、元裁判官や元検察官を含む)が、単独又は共著で書かれたものだが、日弁連を始め、各地の弁護士会や弁護士事務所が「著作者」になっているものも多い。それら多くの紹介(及び購入申込み)書類(ビラ)が、頻繁に弁護士会事務局(福山地区会館)に設置されたボックス(注2)に、日弁連(及びその委員会等)、広島弁護士会本会(同)及び地区会(同)からの書面(これも結構多いが、これに目を通すのは「仕事」の部類に入ろう)とともに入れられ、少なくとも1日か2日おきくらいには取りに行かないと、多く溜まってそれらに目を通すだけでも大変になる。裁判官時代には、裁判所全体(大きい裁判所では、民事部とか刑事部単位)あるいは部の図書選定担当裁判官になると、年1回か2回は、事務局が作った(最近は、最高裁事務局が作ったもののようだ)、分野別とか出版月ごとにまとめて図書の表題と著者名が書かれた一覧表を見て、購入図書の選定を行う必要があったが、それだけの負担であった。しかも、それら一覧表には、今目にしているような弁護士向けの図書はほとんど載せられていなかった記憶である。ところが、弁護士になった今は、毎日のように上記ボックスに入れられたビラに一応目を通さざるを得ないのみならず、直接出版社から電話が掛かってきたり、時にはファックスで送りつけられたり、たまには電話で私の予定を確認した上であるが、セールスマンが直接事務所に売り込みに来たりもする。
 また、これはFAXで送られてくるビラや郵送されてくる冊子によるものが多いが、弁護士業務に資するとして、主に弁護士による講演会や、講演等を録画したDVD等の案内も来る。
 さらに、特に最近多いのは、弁護士ドットコムの成功(?)を見てであろうか、弁護士を紹介するホームページを立ち上げている会社がいくつもあるらしく、それらへの掲載の誘いや、グーグルで弁護士を検索したとき、私の名前が上位に上がってくるようにする(SEO対策と言われるものであろうか?)という誘いなどの電話が、毎週のようにかかってきたが(注3)、それらの応対も当然私がしなければならないところ、裁判官時代には、そのようなことは皆無であった。
 以上のほかに、仕事のスケジュールも、基本的には自分で決め、それを忘れないようにしないといけないが、裁判官時代には、私の予定を把握した上、裁判の第1回期日を決めてくれるのは書記官であったし(注4)、裁判の続行期日(私が主催した裁判期日の次の期日)こそ、法廷で、私が当事者の意見を聞いて決めるものの、その期日を把握し、事件記録を期日前に机の上に出してくれるのも書記官であったから、仮に私が裁判の期日を忘れても、書記官が告げてくれるので、書記官に私の居所(大抵は裁判官室にいたらよいが、弁護士はそうもいかない)さえ知らせておけば、大事になる心配はなかった。
 一時は弁護士の事務処理能力は凄いな、とか、よく書記官から何度言ってもなかなか書類を出してくれない弁護士がいるという愚痴を聞いていたがそれも無理ないか、などと思っていたが、これから他の弁護士に伍して仕事をしていくためにはそうも言っていられない。
 それに、書籍の売込みや、弁護士紹介のホームページ掲載の誘いは、私が新人弁護士だからこそ多いようにも思われるから、そのうち落ち着いていくのかもしれない。(以上)
 

(注1)私のような新米弁護士が、研修として受けるのは当然であるが、弁護士の不祥事が多いせいだとは思うが、森谷弁護士のような大ベテランでも、定期的に広島弁護士会本会に行って倫理研修を受けなければならないし、マネーロンダリング防止のためだと思うが、顧客からお金を預かったことについて、(そのようなことがなくても)全弁護士が、毎年弁護士会に報告しなければならないらしい(「らしい」と、正確な情報を持たないことを告白すると、広島の本会からお小言を頂戴するかもしれない)。福山地区会と本会でそれぞれ3つか4つの委員会に所属させられ(一応希望は聞いてもらえた)、私のような新人弁護士は、その出席及び活動状況についても報告が義務づけられる。弁護士業が「自由」であるための「義務」とは分かっているのであるが~
(注2)裁判官時代、弁護士それぞれに書類を送るための「ボックス」があることは聞いていたが、特に用もないのでそれを見ることはなかった。弁護士になってそのお世話になるようになると、確かに毎日のように大量に送られてくる書類を受け取るには、このシステムは是非必要だと思う。最近、倒産事件を担当して、裁判所内にも弁護士それぞれ(ただし、3~4人共用のようだ)のためのボックスがあることを知った。
(注3)当然のことながら、それらの多くは有料である。しかし、今のところ、それらに充てるほどの金は稼げておらず、また、仮にセールストークの言うように沢山のお客が来たら、まだ、来る事件来る事件初体験で、いちいち調べながら事件を担当している私はすぐにパンクしてしまいそうなので、お金を払ってそのようなサイトで「宣伝」したことはない。もっとも、かくいう私も「無料」の言葉には勝てず、いくつかの「無料」弁護士紹介サイトに私のことを掲載してもらっており、それを見て私に相談したいという方が電話を掛けてきてくださるので、ありがたいと思っている。加うるに、それらの無料の弁護士紹介サイトに登録したら、きっと、頻繁にそれらのサイトが持つ有料システムへの勧誘があるのではないかと恐れていたが、今の所、全くといってよいほどないから、正に太っ腹、といえそうである。
(注4)期日変更の手続をしてくれるのも、通常は書記官である