広島弁護士会所属 福山市の弁護士森脇淳一

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1周年

2019.11.01

 私は、昨年9月30日に裁判官を退官してから同年11月1日に弁護士になるまでの1か月間、「プー」(注1)をした。司法修習を終えてから裁判官任官までの数日間同様の時期はあったがそれ以来で、引っ越しやら片付けやらはあったものの、とにかく、土日以外も仕事らしいことは何もしない日々は新鮮だった(ように記憶する)。
 そして、今日、11月1日午前零時をもって、弁護士生活1周年を迎えた。
 
 繰り返しになると思うが、弁護士になる前、一番の不安だった「果たして仕事があるか?」という心配は、全くの杞憂に終わった。
 仕事はある。しかし、そのほとんどは法テラスあるいは自動車保険の弁護士特約を利用した事件であり(注2)、また、他の弁護士事務所では受任を断られた、あるいは、電話で事案の内容を話したら、相談を受けることすら断られたような(誤解をおそれずに言えば手間の割には収入にならない)事件である。とはいっても、その当事者は真に困って右往左往されているので、これまでのところ、私でよければ、と私の相談を受けたいと電話等されてきた方の相談はすべて受け、必要に応じて受任する(示談交渉や調停申立て、訴訟提起等についての委任を受けて、相談者の代理人になること。以下同じ)に至っている。
 広島弁護士会福山地区会所属弁護士の当番制で、福山市役所(支所を含む)及び広島県東部県民相談センター(料金は無料だと思うが、よくは知らない)あるいは広島弁護士会福山地区会館において、20分間または30分間相談を受けるのであるが(注3)、その短い時間では解決しない事件(時には直ちに弁護士が関与した方がよいと思われる案件もある)については、もし私でよかったら私の事務所に電話をして予約を取り、相談に来てください、と言って事務所の電話番号等が印刷された私の名刺を渡すことがあるが、そのような方が事務所や私の携帯に電話を掛けてこられて(注4)、更に相談を受けたり、受任に至ることも多い。
 相談者の中には、弁護士事務所をハシゴされている方も多く、前に相談した弁護士は法律ではこうなっていると言うだけで機械と話しているような感じで何も解決しなかったとか、やっと話のわかる弁護士に会えた、などと話してくれる方もおり、中には他の事務所への依頼を断ってまでして私に委任して下さる依頼者もいる。想像するに、長年の裁判官としての経験から、裁判をしたらこうなるであろう、あるいは、裁判官ならこう考えるであろうということが言えるという強みがあるし、齢を重ね、若干紆余曲折を経た人生を歩んできたという私の私生活上の経験も、結構相談(人生相談)に生かせているように思う。もちろん、まだ経験は浅いから、弁護士が作った書面や証拠を裁判官として長年見てきたものの、実際にそれらを作ることは初めてで、そのたびにネットや書籍で調べる必要があることがほとんどではあるが、少しずつ自信もついてきた、というところであろう。
 
 ただ、まだまだ慣れないのは相談料および受任した場合の着手金(事件が終結して「成功報酬」を頂いた案件は数少ないが、以下、それとひっくるめて「報酬」という)をいくら頂くかの問題である。本年6月28日までは、西日本豪雨(平成30年7月豪雨)の関係で、相談者のほぼ全員が法テラスを利用できたので、相談者から相談料をいただくことはほとんどなく(注5)、法テラス(すなわち国庫負担ということだろう)から1件につき5000円に消費税分を加算し、源泉税を徴収された残りの4890円(ただし消費税8%のとき)を頂いていたし(注5)、受任した事件でも、それらの事件のほとんどは法テラスを利用する案件であったので、法テラスが報酬や実費額を決めてくれ、私が報酬の金額を決める必要はなかった。
 ただ、本年6月29日以降は、収入や現金預金が多くて要件(資力基準。前記注2参照)が満たされず、法テラスを利用できない相談者もポツポツあらわれてきたし、まれに、無料法律相談における資力基準は満たしても、不動産や有価証券をお持ちで受任する場合には法テラスを利用できない方から事件を依頼されることもあり、その場合は私自身が報酬額を決めなくてはならない。
 私は、裁判官を退官した際、ある程度の退職金を頂いたし、上記のとおり、仕事はあまりないと思っていたので、当面は、さしたる「儲け」はないと覚悟し、弁護士としての収入を月々の生活費に充てることは考えていなかったし、今も考えていない。そもそも、相談者は、いうなれば被害者であって、経済的にも損害を被った人からさらに金を取るなど、人道に反する気もする(もちろん、私も生きていくための「金」が必要だというジレンマはあるが)。加えて、私は、弁護士としてはまだまだ半人前だと思っているので、今も弁護士の多くが報酬の基準としている日弁連の旧報酬基準規定(注6)によって計算した報酬は、高額すぎて、そのまま使おうとは思えない(しかも、その「基準」は幅がありすぎて使いづらい)。そこで、法テラスの立替案件としたならば、法テラスからどれほどいただけるのかを勘案し、それより若干安い(法テラス案件にすると、法テラスへの報告等、いろいろ手間がかかるため、その労力分を差し引く。注7)報酬をいただいている。
 私の想像するに、その額は、私の司法修習時代に見聞きしたことや、その後、知人弁護士から聞いた乏しい知識に照らして、通常の弁護士が請求する報酬のおおむね半額くらいではないかと思う(だから、多くの弁護士は、法テラスの報酬基準は低すぎるので上げるべきだと仰っているし、そもそも法テラスの民事事件についての契約(正式には「民事法律援助利用契約」)はしない弁護士も多い)。
 そうこうするうちに、私もほとんど「儲け」の出ない仕事で忙しい「薄利多売」の状態になりつつある。
 もし、安いという評判が立って仕事が集まっているのであれば(まだそこまでではないと思うが)、同業者の迷惑になろうし、時間をかけるべき仕事に時間を掛けられなくなって、安かろう悪かろうになっては元も子もない。そんなことを悩みつつあるのが、私の弁護士生活1周年のご報告、ということになろう。
 
(注1)「プー太郎」という言葉は、元は、「風太郎」=「日雇い労働者」の意味だったことは、子供ながらに知っていたように思う。その言葉が、いつの間にか無職者の意味で、自分より若い世代の人が盛んに使い、耳にするようになったが、私はどうもしっくり来ず、今回、ほぼはじめて自分の言葉として使ってみた。しかし、ネットで調べたところ、最近では使われなくなりつつある言葉らしい。歳を重ねるということは、こういうことでもあるらしい。
(注2)法テラス(正式名称・日本司法支援センター)については別に詳しく書きたいと思っていたが、若干触れておきたい。法テラスでは、同一案件で3回まで、無料で弁護士や司法書士(以下「弁護士等」という)による法律相談が受けられ、また、事件を弁護士等に委任する場合は、弁護士等に対して支払う費用(実費および報酬)を法テラスがいったん立て替え、後に、法テラスに対し、事件の相手方から得た金銭で、あるいは最低月5000円の分割払いで「償還」することができる(生活保護世帯またはそれに準じる人に対しては、償還免除の制度がある)。現在、法テラスが利用できる要件(資力基準)は、収入要件(基準)と資産要件(基準)に分けられ、前者は手取収入から家賃や住宅ローン(一定額まで)を差し引いた金額が単身者で約20万円以下、後者は、法律相談の場合は現金預金のみ、受任する場合はそれに不動産や有価証券の価額を加えた額が、単身者で180万円以下、というものである(家族が増えれば、当然のことながら、それぞれの基準は上がる)。しかし、ここだけの話であるが、それらが満たされているか、特に弁護士や法テラスにおいて「調査」するわけでも、事件を委任する場合の収入証明以外に資料を提出してもらうわけでもなく、あくまで利用者の「自己申告」に基づく審査であり、受任事件の性質からおかしいと思われない限り、利用したい人は利用できるある程度「テキトー」な制度である。総合法律支援法に基づく制度であるが、それがなかった時代を(弁護士としては)知らない私としては、その時代にはいったいどうしていたんだろう(※)と思うほどである。いろいろな意見があったことは承知しているが(一番の問題は、法テラスが法務省所管で、その意向を無視できないという点だろう。もっとも、これまで、法テラスの事業運営に法務省(国)が直接口を出してきた、という話は聞かない)、この制度設立に尽力した方々(もちろん、お金を出し合い、あるいは手弁当で活動していた弁護士がほとんどであろう)に敬意を表する次第である。なお、自動車保険の弁護士特約については、将来、また別に記したい。
(※)法テラスができる前は、主に弁護士がお金を出し合って日本弁護士連合会が設立した財団法人法律扶助協会が同様のことをしていたのであろうが、予算(国からの補助金もあった)は格段に少なかった(と、私は認識しているのであるが、本来、門外漢の私が口を挟むべき点でないことは承知している)。
(注3)それ以外にも、犯罪被害者や少年事件、外国人の事件等、法テラスが利用できない場合でも、日弁連が費用を援助して法律相談や事件の受任ができることになっており、私もその一部に関わっている。しかし、私自身その全容を知らないので、このことは、将来、私自身が把握できたら紹介することとしたい。
(注4)そのような相談者は、大抵、私が当然その相談者のことを覚えていると思って、電話口の向こうで、「◯◯ですが、・・・」と氏のみ名乗って直ちに本題について話し出すのであるが、特に市役所の無料相談会では、午前中の3時間に20分ずつ合計9件ほどの相談を次々と受けることが多く、私がそのような無料相談会の相談者やその相談の内容を覚えていることはほぼないので(広島弁護士会福山地区会館での30分ずつの相談者についてもほぼ同様)、ご迷惑をおかけしている。
(注5)相談を受けるついでに相談者名義で書類の下書きを作成する場合もあるが、法テラスの定めでは、その場合は、その報酬額の半額(文書一通につき2160円)を相談者から頂かないといけないようだ。しかし、面倒なので、これまでそのような書類を作成した場合でも、特に報酬を頂いたことはない。
(注6)それによると、私の受任するような訴額のない示談交渉事件や、訴額100万円にも満たないような調停や訴訟の着手金は、いずれもその最低額(これだけはもらいなさい、という額)が10万円と消費税1万円の合計11万円となるが(正確には示談交渉及び調停が訴額187万5000円以下、訴訟が訴額125万円以下の場合、いずれも着手金の最低額は10万円となる)、依頼人の受ける利益(実際に現金を手に入れられることは少ない)を考えても、私の払う労力を考慮しても、とてもそれだけ請求するのが妥当とは思えないことが多い。
(注7)法テラス案件にすると、直接依頼者から報酬等をいただく事件に比べて以下のような「手間」(他にもあるかもしれない)がかかる。もっとも、現在、私の収入の大半は法テラスから頂いているので、その手間を惜しむわけにはいかない。なお、法テラスを利用した相談者から私選で受任する場合には、法テラス広島の地方事務所長宛てに、その理由を記載し、依頼者に署名押印をしてもらった書面をファックスし、その承認を受けなければならない。
ア 依頼者に「援助申込書」を書いてもらい、資力基準を満たすかどうかを確認
イ 法律相談を受けた後、相談内容等を記載した「法律相談票」を作成してアの援助申込書とともに法テラスにファックスで送信
ウ 受任事件については、依頼者に不動産や有価証券等の資産があるかについても確認の上、依頼者に住民票や収入に関する証明書を用意してもらい、依頼者に作成してもらった「資力申告書」とともに法テラスにファックスで送信するほか、法テラスからの扶助金(私が法テラスからいただくお金)を自動払込の方法で法テラスに償還してもらうための必要事項(預金口座番号や、その金融機関に対する届出印を押捺してもらうなど)を記入して作成してもらった「法律扶助償還金」という表題の用紙の原本を法テラスに郵送し、私は事件調書(事件の概要についてより詳しく記載)を作成してファックスで送信
エ 扶助決定書が届いたら、それと同時に届けられる「重要事項説明書」(2通)と「代理援助契約書」(3通)について依頼者に説明した上、それらに署名押印してもらい、その各原本1通ずつを法テラスに郵送
オ 事件処理に着手した場合の「着手報告書」、事務処理が長引いた場合の「中間報告書」、事件が終結したときの「終結報告書」等をそれぞれ作成して、ファックスで送信