広島弁護士会所属 福山市の弁護士森脇淳一

お急ぎの方はお電話でどうぞ!

084-926-5512

2023年を迎えて(付・最近の民事裁判官についての雑感)

2023.01.04

 依頼者から、最近、ホームページの更新をされていませんね、と言われることもあり、コラムを書かなければ、と思いながらも、結局丸1年、コラムを書くことがなかった。
 それは、ひとえに、法律相談(利害関係がない限り原則お断りしない)、受任した事件(不当訴訟はお断りするが、そうでないと、中々お断りできない)についての打ち合わせ、訴状・準備書面・証拠説明書・証拠申出書などの書類と証拠作成、裁判所での期日(最近は、私は事務所にいて、電話会議やweb会議で行われるも多いが)で行われたことの依頼者への報告(忘れることも多々あって、御迷惑をおかけした)及び尋問準備(と私生活)を優先してしまっていたせいであり、私はなんとか元気でいますので(注1)、コラムが更新されないことで私の安否を気遣ってくれている方がもしおられたならば、ご安心ください。

(注1)一昨年、昨年と、私の元同級生や、私と同世代の方を含む知人弁護士の訃報に多々接した。新型コロナで亡くなった方もいる。この場を借りて、お悔やみ申し上げる。

 といっても、私も、昨年秋以降、仕事のし過ぎが原因だったと思われるが、多少体に不調を感じ、12月に予定され(実施され)た合計4期日の尋問が終わったあとの日に、裁判官退官後、ずっと受けていなかった胃カメラと血液検査等を予約して受けた。結果、生活習慣病のみが指摘されるにすぎなかったので、少し安心した。
 特に、昨年、仕事が立て込んできたのは、2020年5月以降、私に事件の依頼が増え(コラム「新型コロナ禍のもとでの近況」参照)、2020年秋口から2021年初頭に提訴した幾つかの争いのある比較的困難な事件の審理が佳境に入り、人証調べやまとめの準備書面を書くことが多かったせいもあると思う。

 さて、最近気になるのは、勿論、かの国で人と人とが殺し合っていることなど国際情勢についてであるが(注2)、何を言っても詮ないことなので、以下、比較的若い民事裁判担当裁判官について、昔からある「近頃の若いもんは・・・」という年寄りの愚痴だと自覚しつつも一言述べておきたい(刑事裁判についても言いたいことはないではないが・・・)。

 私の赴く裁判所だけの傾向なのかもしれないし、たまたまなのかもしれないし、もっといえば、単に私の事件についての「見立て」が間違っていただけなのかもしれないが、複数の裁判体(いずれも単独裁判なので「裁判官」)から、事実や勝ち負けについて激しく争っている事件の、しかも争点整理段階(これから人証申請をしようとしているとき)に、裁判官から、いくらいくら支払えとの判決をします、だとか、請求を棄却します、などという「裁判の結論」を示されること(以下「心証開示」という)が重なった。
 私の見立てでは、いずれも決め手となる証拠がないものだったし、その裁判官の述べるその心証に至った理由についても根拠薄弱で説得力があるとは思えない、十分反論可能なものであったから、正直「びっくり」した。しかも、そもそも当事者の主張や争い方からして、どちらも後には引けないし、仮に負けたとしても全てを失うというような危険があるわけでも(つまり、リスクヘッジをしなければならないようなものではない「巷の事件」)、その心証開示があったからといって和解になるような事案でもなかった上、その後、特に、裁判官から積極的に和解勧試があったわけでもなかったから(まあ、「負ける」と言われた方が、その心証開示に激しく抵抗したから当然ではあるが)、何のための心証開示だったのか不明(というか、理解不能)であった。
 当然のことながら、いずれも人証調べに入ったが、当方の依頼者が勝つと言われた事件では、私の尋問の「やる気(モチベーション)」を保つことに苦労したし、イライラの募る相手方弁護士からは「異議」が連発された。他方、私の依頼者が負けると言われた事件では、当然、第一審の判決では負けるであろうから(注3)、控訴審で原判決を取り消してもらうための材料として、請求原因の追加をしたり、新たな証拠を提出したり、証拠の申出をしたり、手続の違法などについて細々と異議の申し立てをするなどした(注4)。
 言い方は悪いが、裁判官は、事件を人質に取っている、つまり、当事者(弁護士代理人)が、裁判官の機嫌を損ねると、もしかしたら自らに不利な判断をされるのではないかという一抹の不安があるからこそ、どんなに裁判官の言うことが的外れだと思ったり、ボンクラだと思ったとしても、へいこらその裁判官の言うことに従うのである。少なくとも私は、当然のことながら、(当事者や関係人から)私の知らない事案の真相を聞いており(裁判官に知らされる「事実」は、裁判官が誤解しないよう、その一部にすぎない)、私より何倍も経験があり、幾多の修羅場を潜って私とは比べものにならないほど「世間」を知っている老獪な弁護士が、私の言うことに聞き耳を立て、私の指示に文句を言うことなく従ってくれるのは、全て、私が事件についての決定権を持っているという、その一点を理由とすることを知っていた。
  しかるに、早期に心証開示し、自分が負けると分かった弁護士は、既に人質(事件)を殺されたも同然であるから、裁判官に対し、遠慮がなくなる。つまり、裁判官の言うことを聞かなくなる。転勤が近ければ(注5)、ボンクラ裁判官には、思ったとおりボンクラと言ってしまう。
 人質を殺してしまって、弁護士に遠慮をなくさせる、わざわざそんなことをする裁判官がいることが、私には信じられない(注6)。
 やはり、裁判官は、ポーカーフェイスでいるべきなのである(注7)。

(注2)そのことに加えて、この年末年始は、久々に、年末年始に溜まった仕事をするのに費やさざるを得ず(裁判官時代には、ほぼ毎年そうだったような気がする)、それでなくてもお祝い気分にはなれない。
(注3)裁判官は、確定的な心証開示をしてしまうと、その心証に反する判決は書けない。そんなことをしたら、そのことを知った弁護士(そのような噂は、裁判官の判断傾向について敏感な弁護士仲間に、光速より早く広まる)は、その裁判官の開示する心証と判決が一致しないかもしれないと考えて、その裁判官の言うことを信用しなくなり、ひいては、その裁判官の示す和解(それは、判決の結論をベースに、若干負ける方に有利になっている可能性が高い)に応じなくなるからである。和解で事件を落とせなくなった裁判官は、よほど判決を書くことが早い者でない限り(もっとも、早いだけでは評価されないのは当然である)、「赤字」に苦しむことになる。
(注4)異議を述べておかないと、控訴審において、責問権の放棄(民事訴訟法90条)などと判断されかねない。
(注5)転勤がまだまだだと、余りにその裁判官を敵に回すと他の事件で不利な判決を書かれるかも知れないので、やはり、遠慮しなければならない。
(注6)私は、人証の尋問が終わった段階では、それで心証(判決の結論)が形成できる筈であるから、原則、それを示して最終の和解勧告をすることが、裁判官としての「義務」だと思っていた(勿論、中にはその段階では心証が固まらず、記録を精査して判決を書いてみないと結論が分からない事件もあり、そんなときは、正直にそう言って和解を勧告した)。しかし、私の知る限り、そのような「義務」があると考えている裁判官は、周囲にいなかった気がする。なお、判決前に心証を開示したが、判決を起案してみたら逆の結論になってしまった事件が1件だけあった。そのときは、弁論を再開し、その理由とともに、その開示した心証は間違っていたので撤回すると述べて謝罪し、さらに主張・立証をする機会を設けた。
(注7)私は、感情がすぐに顔に出てしまうタイプなので、そのようなことはできず、弁護士には、時々の心証はバレバレだったようである。もっとも、10年間民事単独事件を担当していた奈良地裁時代には、奈良弁護士会の会員には、「森脇さんの心証はコロコロ変わる」と言われていたようであるから、心証がばれなかったという意味では、ポーカーフェイスと同じではなかったかな?と思っている。